がん遺伝子治療について

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がん遺伝子治療について

遺伝子治療は、「第5の」がん治療法

遺伝子治療の特徴は、高い「忍容性」
・正常細胞にダメージを与えることがないため、重篤な副作用が発生しない
・がん細胞の殺傷ではなく、がん細胞を正常細胞の状態に戻すことを目指している


■免疫療法の効用と課題
 免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法の開発の功績が認められ、京都大学出身の本庶佑先生がノーベル生理医学賞を受賞されました。今後、免疫療法の発展が大きく加速することが期待されます。その偉大な功績である「T細胞表面のPD-1分子やがん細胞に多く発現しているPD-L1分子を発見」を論文上で公表したのは1992年、今から25年以上も前のことです。その発見に基づいて、免疫チェックポイント阻害剤という今までにない薬剤の開発に至り、長い間大きく期待されながら、なかなか日の目を浴びなかった免疫療法がようやく第4のがん治療として脚光を浴びることになりました。

 一口に免疫療法といっても、今回話題となっている免疫チェックポイント阻害治療以外にも、様々な種類の免疫療法が存在します。例えば、リンパ球活性療法、NK細胞療法、樹状細胞療法などです。これらの免疫療法も、かつてから大きな治療効果が期待され今でも民間の医療機関を中心として提供され続けていますが、科学的証拠や費用対効果の点などで怪しげな治療というレッテルが貼られ、免疫療法自体が胡散臭いものとして見られています。免疫チェックポイント阻害剤がこの世に出てきたことで免疫治療自体はこれからますます注目されるでしょう(ただし、免疫療法と名が付く怪しげな療法は数多く存在するので注意は必要です)。

 そして、免疫チェックポイント阻害剤による治療は、進行がんや難治がんに対して今までの抗がん剤では考えられない治療効果を示すことがある一方で、重篤な副作用が発生することもあります。PD-L1分子は正常細胞にも発生していることがあり、それを阻害することで正常細胞自体が免疫細胞により攻撃される可能性もあるからです。また、残念ながら奏効率もまだ十分とは言えません(治療の難しい進行がんを主たる治療対象としていることから「病状が改善する割合である奏効率」ではなく、「症状の無増悪期間の延長の程度」を評価対象とすべきという意見もあります)。
 免疫チェックポイント阻害剤>オプジーボRによる副作用(がん治療.com)


■遺伝子治療の特徴
 さて、手術・放射線治療・抗がん剤治療に続く第4のがん治療法としての免疫療法が注目されるにあたって、私たちが現在行っている「遺伝子治療」はどのような位置づけになるのでしょうか。いずれ、免疫療法に続いて台頭する「第5のがん治療」ということになると考えています。

 遺伝子治療と一口に言っても様々な方法があります。それは免疫療法と同様です。患者さんに欠損している遺伝子もしくは突然変異により機能していないと考えられる遺伝子を補う方法や、RNA干渉に基づいて標的タンパクに作用するマイクロRNAを投与する方法が、遺伝子治療の代表的な方法です。北青山Dクリニックの遺伝子治療は、P16、PTEN、P53などのがん抑制遺伝子の投与のみではなく、後者のRNA干渉に関わるCDC6 shRNAなどの投与を主として行うものです。このRNA干渉という技術は実は2006年にその発見者にノーベル医学生理医学賞が授与されています。
 2006年ノーベル医学生理学賞:RNAi(PDF)
 また、2018年8月そのRNA干渉に基づいた治療薬が世界で初めてFDAで認可されました。
 FDA、初のRNAi治療薬承認(crisp-bio.blog)
 今後このRNA干渉を用いた医療技術が改良や進化を続けて様々な疾患の治療に応用されることになるでしょう。


 ところで、遺伝子治療が化学療法、免疫療法に比べて優れていると思われる点の一つに、その高い「忍容性」があります。忍容性とは、認容性(Tolerability)とも表現され、薬物によってほぼ確実に生じる有害作用が患者さんにとってどれだけ耐え得るかの程度を示したものです。
 副作用が少なく患者さんが耐えられるものであれば「忍容性が高い(認容性が良い)薬」と評価されます。化学療法(抗がん剤治療)は骨髄抑制(貧血・白血球減少・血小板減少)、消化器障害、腎障害、神経障害、脱毛などの有害事象が多かれ少なかれ発生します。保険適用となった唯一の免疫療法である上述の免疫チェックポイント阻害薬による治療も、間質性肺炎や重症筋無力症などの重篤な副作用の発生リスクがあります。
 これは、化学療法も免疫チェックポイント阻害療法も、がん細胞だけではなく正常細胞に対しても攻撃をすることがあるためです。しかし、RNA干渉を軸とした遺伝子治療は正常細胞にダメージを与えることがありません。化学療法や免疫チェックポイント阻害療法のような「諸刃の刃」としての性質がないのです。遺伝子治療に伴う副作用は発熱や血圧低下などの一時的なものに限られます。時に発熱の程度や血圧効果の程度が極端に大きくなることがありますが、積極的追加治療を必要とするような重篤な副作用は発生しません(薬剤が効き過ぎたことによる※腫瘍崩壊症候群: の可能性はあります)。
 ※ 治療後、腫瘍が崩壊縮小した症例(腫瘍崩壊症候群)−1(北青山Dクリニック院長ブログ) 
   治療後、腫瘍が崩壊縮小した症例(腫瘍崩壊症候群)−2(北青山Dクリニック院長ブログ)

 北青山Dクリニックでは、2009年から、数千件以上の遺伝子治療を外来で安全に実施しています。治療自体が仇になって、がんに対する抵抗力を下げてしまうことがある化学療法と比べると極めて忍容性が高い治療と考えています。忍容性が高い治療法である故に、がんが広範囲に広がっていた場合でも、薬剤を圧倒的に大量投与すればがんをコントロールできる可能性があるのではないかと、薬剤の大量生産の方法を現在模索しています。

 遺伝子治療が1990年代に世の中に登場した当初は、劇的な治療効果が期待される一方で、治療が原因で白血病が生じた例や遺伝子を運ぶウイルスベクターに対して非特異的な免疫反応が起きて多臓器不全を来した例が発生しました。以来20年以上の歳月を経て、安全なウイルスベクターが利用できるようになり、RNA干渉の技術も応用され安全性の高い有効な治療法として期待されています。


 さらに、RNA干渉に基づいた遺伝子治療が、化学療法や免疫療法と大きく異なる点は、治療設計の基本的な考え方です。化学療法と免疫療法はそのメカニズムが異なるものの、“がん細胞の殺傷”をいずれも目指しています。それは、がんを敵と見なして破壊する、という考え方に基づきます。一方でRNA干渉による遺伝子治療は、がん細胞はそもそも正常細胞が突然変異したものであることに注目して、その変異した部分を修正ないしは消去して“正常細胞の状態に戻すこと”を目指しています。がん細胞を正常細胞の状態に戻すことができれば、その細胞は無限に増大したり周囲に浸潤したりすることがなくなります(分子生物学的にはこの現象をsenescence: 細胞老化 と言います)。そして、さらに細胞の正常化が進むと、自浄作用が働き、無用に発育したがん細胞が自殺して消去(apoptosis: アポトーシス 細胞死)されます。細胞老化の現象が生じると、がんの活動は完全に止まり、言わば良性腫瘍となって体にとって何も悪さをしなくなります。細胞死すると、自己消去により細胞は消滅します。例えは十分かつ適切ではないかもしれませんが、これは不良な細胞が更生して良質の細胞になったとも表現できます。RNA干渉を利用した遺伝子治療が正常細胞にダメージを与えることがなく忍容性が高いのは、この様な治療設計に基づいていることが理由です。


■遺伝子治療の今後
 夢の治療として1990年代に世の中に登場した遺伝子治療は、当初は治療による重篤な事例がありました。遺伝子治療は時期尚早と見なされ、灯った火が消えかけた時期もあります。以来、20年以上の歳月を経て改良が進み、現在は安全かつ有効な治療法と見なされ、さらに日々進化しています。RNA干渉を主軸とした北青山Dクリニックの遺伝子治療も、難治がんや進行がんを対象としながらもその治療成績は年々向上しています。

私見ですが、遺伝子治療が、手術・放射線・化学療法・免疫療法に続いて、がん治療の主軸となる日はそれほど遠くないと思います。

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