スキルス胃がん・膵臓がんとCDC6shRNA治療

スキルス胃がん

 

  1. はじめに

 

 我が国の人口動態統計では、1981年以降、悪性新生物(がん)が脳血管疾患に代わって死因の第一位を占めています。もともと悪性新生物の中で死亡率が最も大きかった胃がんは、男女とも1970年以降その死亡率が着実に低下してきていますが、現在もなお、部位別に見た死亡率において胃がんは肺がん・大腸がんに次いで第3位で、男性の胃がん罹患率はそれほど減少していません。すなわち、胃がんは罹患率、死亡率共に依然として高い疾患です。胃がんの死亡率が着実に減少している要因としては、健診体制の整備や医療水準の向上による早期発見治療やピロリ菌感染のコントロールによる予防が可能となってきたことが挙げられます。

しかし、胃がんの中でもスキルス胃がんは、いまだに早期発見が困難で増殖浸潤が速いため、治療成績が著しく悪い難治がんと言われています。すなわち、スキルス胃がんを発症した場合に根治的な治療を受けることが極めて困難である場合が多いのです。また、スキルス胃がんは、比較的若年齢(20歳代)でも発症することがしばしばあります。子供がまだ小さくて、まだまだ元気に生き続けなければいけない方々(死を受け入れがたい方々)がスキルス胃がんでお亡くなりになることがあり、我々医療従事者はスキルス胃がんに対する有効な対処法を一刻も早く確立することの必要性を日々痛感しています。

 

   胃がん罹患率

国立がん研究センターがん対策情報センター資料

 

 胃がん死亡率 男性

胃がん死亡率 女性

国立がん研究センターがん対策情報センター資料

 

  1. スキルス胃がんの定義(この部分は多少専門的な内容が含まれます。

スキルス(schirrhous)は、がんがびまん性に(不規則に)浸潤していく(広がっていく)タイプのものを指し間質が多いのが特徴です。硬いしこりを形成していくことから硬癌とも呼ばれます。語源はギリシア語のskirrhos(硬い腫瘍)。胃・大腸・乳腺でこのようながんの発生が見られますが、典型的なスキルスがんは胃に発生します(スキルス胃がん)。スキルス胃がんは胃壁が厚く硬くなって進展不良となり、腹膜播種という特徴的な転移形態をとることが特徴です。腹膜播種とは、転移の一つの形で、腹腔内にがん細胞がばら撒かれるように飛び火することを言います。それにより腫瘍塊の形成や腹膜炎を来し、結果として腸閉塞や腹水を生じることがしばしばあります。スキルス胃がんは、そもそも一種の胃炎と考えられていたため英語ではlinitis plastica(形成性胃炎の意味)と表現されます。

 スキルス胃がんは、肉眼的にBorrmann4型がんを呈し、組織学的には上述の如く繊維結合組織(間質)が多く、がん細胞がびまん性に周囲に浸潤することが特徴です。わが国ではスキルス胃がんの病態を表す名称として、「Borrmann4型胃癌」、「胃癌取り扱い規約における4型胃癌」、「linitis plastica 型胃癌」が用いられています。

  • Borrmann4型胃癌

Borrmannの胃癌肉眼分類では、4型は硬性型と髄様型の二つの亜型に分けられますが、硬性型がスキルス胃がんです。しかし、髄様型は極めて稀なためBorrmann4型胃癌=スキルス胃がんとして扱われることが多いようです。

  • 胃癌取り扱い規約における4型胃癌

日本胃癌学会による胃癌取り扱い規約において、肉眼型分類の4型はびまん浸潤型を指すので4型胃癌=スキルス胃がんと言えます。しかし、これもBorrmann分類と同様肉眼型分類なので、4型胃癌の中に組織学的にはスキルス胃がんではない胃癌が含まれる可能性はあります。

  • Linitis plasticaLP)型胃癌

かつて胃壁が肥厚する病態を炎症性の疾患と考え、linitis plasticaと称していましたが、20世紀前半にこの病態は癌が浸潤することにより引き起こされた病態であることがわかるようになり、linitis plasticaはびまん浸潤型の胃癌を表すようになりました。現在では「粘膜下組織・固有筋層以深における癌細胞浸潤が胃の2/3以上にびまん性に及んでおり、そのため胃壁が繊維性に一様に肥厚し、全体的に管状狭窄あるいはleather bottle状を呈している状態で、胃底腺粘膜から発生した未分化型腺癌から成る癌」と定義されます。したがって、linitis plasticaはスキルス胃がんの一亜型を表している名称になります。

以上、Borrmann4型胃癌と胃癌取り扱い規約における4型胃癌は、スキルス胃がんの広義の疾患定義ですが、逆にlinitis plasticaは狭義の疾患定義ということになります。

 

典型的なスキルス胃がん(LP型胃がん)   

  出典:「スキルス胃癌 基礎と臨床」医療ジャーナル社

 

 

3.スキルス胃がんの発生と成因

 

 一般の胃がんの発生原因としては、慢性胃炎、ヘリコバクターピロリ菌感染による萎縮性胃炎、ストレス、塩分の多い食事、喫煙、飲酒、遺伝子変異などが挙げられます。一方、スキルス胃がんの成因ははっきりとはわかっていません。

諸家の見解によると、胃底腺領域の未分化型、Ⅱc様陥凹性病変が、LP型スキルス胃がんの初期像であると考えられています。全経過23年でⅡc様病変がスキルス胃がんへ進展するようです。Ⅱcからpre-linitis plasticaへと進み、繊維性収縮が始まると数か月でLP型スキルス胃がんが完成すると報告されています。

 

 

4. スキルス胃がんの発生頻度

 

 胃集団検診、一般住民の疫学調査、病院受診者など母集団や調査法の違いにより若干の差異は認めますが、スキルス胃がんの発生頻度は、胃がん全体の中の1.44.7%と報告されており、胃がん全体の中で発症する頻度は比較的少ないと言えます。

 また、スキルス胃がんは他の胃がんに比べて発症年齢が比較的若年であることも特徴の一つです。すなわち、まだ子供が小さい比較的若い親御さんたちがスキルス胃がんで予後不良となる不幸を目にすることがしばしばあります。

 

 

5. スキルス胃がんの男女差

 

 胃集団検診の成績では、胃がん全体での男女差を見ると、男性の方が明らかに多いのですが(6070%くらいが男性)、スキルス胃がんだけでみると、逆に女性が6070%を占めています。

 一般的に、がんの発症は男性の方が女性よりも多いことがわかっています。理由は不明ですが、スキルス胃がんは女性の方が多い例外的ながんと言えます

 

 

6. スキルス胃がんの予後

 

 スキルス胃がんの生命予後については、胃集団検診受診者を対象とした複数の報告で、5年生存率が09.5%と極めて不良です。スキルス胃がんへの有効な対処法の考案が急務です。

胃がんのステージ別 5/ 10年相対生存率 

スキルス胃がんはその殆どがステージⅣ

 

 

7.スキルス胃がんの症状

 

 スキルス胃がんは無症状である場合もありますが、典型的な症状としては、食欲不振、体重減少、下痢、胸やけ、消化不良などが挙げられます。病状が進むと、嘔吐、吐血、下血、タール便、腹水などの症状が現れてきます。症状が発生してからスキルス胃がんが発見された場合は、その多くの場合が腹膜播種など多臓器への転移が発生しており残念ながら根治的治療が確立されていない状況です。

 全てのがんに共通していえますが、できるだけ早期にがんを発見するには症状がなくても定期的に検診を受けることが肝要です。

 

 

8.スキルス胃がんの診断

 

 スキルス性胃がんの診断には、胃内視鏡検査、胃バリウム検査、腹部エコー検査、腹部CT検査、腹部MRI検査などが用いられます。

 スキルス胃がんは、胃内視鏡検査では、胃粘膜のひだが肥厚している、胃の壁が硬い、空気を送っても胃の膨らみが悪い、などの所見が得られます。一般の胃がんと異なりスキルス胃がんは胃粘膜表面ではなく胃壁の深い所を這うように進展していきますので、組織検査(一部粘膜を採取して病理診断を行う検査)で確定診断が得られないことがあります。スキルス胃がんを疑う上述の肉眼所見があった場合は、組織検査で確定診断が得られなくても他の検査を重ね合わせたり、再検したりするなどしてスキルス胃がんを見逃さないようにすることが大切です。

 

  スキルス胃がん内視鏡所見

 胃粘膜がこん棒状に肥大している。    

 

 スキルス胃がんは、胃バリウム検査で胃が全周性に収縮している典型的な像が捉えやすいことが特徴です。胃がんの早期発見という観点では、胃内視鏡検査の方が胃バリウム検査よりも優れていますが、スキルス胃がんに関しては、胃内視鏡検査よりも胃バリウム検査の方が、診断が容易である場合が多いようです。

 病変が進展して、胃の壁が相当に厚くなったり、腹膜播種を来して腹水が発生したりすると、腹部エコー検査・腹部CT検査・腹部MRI検査で病状が捉えられるようになります。

 

腹部CT(胃壁の肥厚が顕著) 

 

  スキルス胃がん a: 内視鏡 b: 仮想内視鏡 c: 3D CT dMPR表示

胃壁の進展不良及び肥厚が顕著

   出典:「スキルス胃癌 基礎と臨床」医療ジャーナル社

 

9.スキルス胃がんの治療

 

 あらゆる固形がん(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がんなど、血液がん以外の通常のがん)に対して、手術で完全に取り除く治療が最も根治性が高い方法です。ただし、それは病変が早期で発見され、手術により一つのがん細胞も体の中に残らずに取り除かれることが前提となります。既に、がんが相当に進行して、目に見えないレベルであってもがん細胞が体の中に広がっている場合は手術を行うことはできません。完全にがんを取り除けないのに少しでもがんを減らそうとして無理に手術を行うと、体へ大きなダメージが加わって体力や免疫力を奪うことになるため、むしろがんの病勢が増し症状が急速に悪化してしまいます。

スキルス胃がんは診断時には既に早期がんではなく相当に進行していることが殆どなので、根治的治療である手術が選択できないことが残念ながら多いのが事実です。また、手術で切除できたと判断されても、目に見えない形で腹膜にすでに播種していることが極めて多く、手術後まもなく再発を来すことがしばしばあります。その場合選択されるのが抗がん剤治療に代表される化学療法です。このような形で採択される化学療法は、根治を目指す治療ではなく治療目標は延命です。治療をしなかった場合に比べて1カ月でも長く延命することが目標に置かれます。ただし、化学療法は副作用が激しい場合があるため、治療を実施する場合には負担と利益のバランスが大切になります。延命するために生活の質を著しく落とさざるを得ない場合があるので、治療法の選択については主治医とよく相談して決める必要があります。

最近は、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などの従来の抗がん剤に比べて副作用が少なく治療効果が期待できるものが治療応用できるようになってきました。ただし、残念ながら副作用は相応に発生し生活の質の低下は多かれ少なかれ避けられません。また、延命が治療の目標である点は変わりません。典型的なスキルス胃がんに対する薬物治療はほぼそのプロトコールが決まっており、1stライン、2ndライン、3rdラインと3段階で実施されることが一般的です。1stラインでは、TS-1ないしはカペシタビン(商品名:ゼローダ)とシスプラチンかオキサプラチンの併用療法が行われます。がん細胞の表面に発現しているタンパクを調べてHER2陽性の場合にはこの併用療法に抗HER2治療薬のトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)を付加します。1stラインが効かなくなるか副作用が大きい場合は2ndラインに移ります。2ndラインではパクリタキセル(商品名:タキソール、アブラキサン)とラムシルマブ(商品名:サイラムザ)の併用療法などを行います。そして、これらも使えなくなってしまうと、3rdラインのニボルマブ(商品名:オプジーボ)という免疫チェックポイント阻害剤を選択します。この薬剤は間質性肺炎や重症筋無力症などの重い副作用が発生することがあり使用には細心の注意を要します。

CDC6shRNA(CDC6 RNAi)治療は、正常細胞にダメージがない治療設計のため激しい副作用がなく、スキルス胃がんに対しても治療効果が期待できる点を私たちは高く評価しています。治療を継続することによりスキルス胃がんや膵臓がんなどの難治がんをsurvive(克服する)できる可能性があると判断しています。ただし、がんの進行度が大きい場合は、やはり延命治療にしかならないことがあるので、日々治療効果を高めるため薬剤自体や治療法の改良に励んでいます。

 

10.スキルス胃がんの予防

 

 残念ながら有効な予防法は確立されていません。ただし、一般の胃がんに対する予防法と同様に、刺激物を避ける、塩分を摂り過ぎない、暴飲暴食をしない、飲酒を控える、禁煙する、ストレスをためない、ピロリ菌は除去する、定期的に(1年に1回)胃内視鏡検査を受ける、などは非常に大切です。

 最近は、遺伝子検査(SNP検査)で、体質的に胃がんのなりやすさも評価できるようになりましたので、予防を積極的に行いたいとお考えの方は遺伝子検査で自分の発症リスクを評価しておくのも良いでしょう(遺伝子検査を希望される方は当院にご相談ください)。

 

11.おわりに

 

 スキルス胃がんは、難治性で比較的若年者でも発症し不幸な転帰を来す例が後を絶たない極めて厄介な疾患です。スキルス胃がんに対する標準治療の進歩は日進月歩ですが、まだまだコントロールが十分できていません。そのような中で、CDC6shRNA治療はスキルス胃がんをコントロールできる革新的な治療法である可能性があります。私たちは、スキルス胃がんに対する有効な治療法の一つとしてCDC6shRNA治療を更に育んでいく所存です。

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