スキルス胃がん・膵臓がんとCDC6shRNA治療

スキルス胃がんの余命について

がんの「余命」とは

 多くのがん患者さんやそのご家族は、”余命”の宣告を受け、死期を意識する場面があります。この余命とは、患者さんの「残された命の期間として確定的なもの」と受け取られがちですが、実際は「これくらいの期間は生きているだろうと医師が推測する期間」でしかありません。人の真の寿命については医師も正確にはわかりません。医師が宣告する余命○か月(年)というのは、統計的なデータと臨床経験による勘に基づいて推測されたものであり、一概にそれが正確とは限らないのです。

医師はどのように余命を推測するか

 では、医師はどのような情報をもとに、余命を推測するのでしょうか。

 ひとつには、がん患者さんの生存期間を統計的に表した「5年相対生存率」「10年相対生存率」というものがあります。国立がんセンターの表現を引用すると、5年相対生存率とは、「がんと診断された場合に、治療によりどのくらいの期間その生命を救えるかを表す指標」です。言い換えると、あるがんを発症した患者さんが、5年後にどれくらいの確率で生存するかを示したものです。具体的には、がんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、性別・生まれた年・年齢分布などが同じ日本人の集団の中で5年後に生存している人の割合に比べて、どのくらいかで表します。100%に近いほど治療により生命を救えるがん、0%に近いほど治療に抵抗性のある難治がんであることを意味します。この相対生存率は、がんの種類によって別々に統計が出されています。
 しかし、5年相対生存率はだけでは余命を導き出すことは容易ではありません。5年相対生存率は、「5年後に生存している人の割合」でしかなく、生存期間がどのくらいであったかはわからないからです。

 そこで、「生存期間中央値」という指標も参考にすることがあります。現在は、がんのタイプや進行度により、様々な治療法が確立されてきています。その治療により、実際にどれくらいの人がどれくらいの期間生存していたかを示すデータをもとにして算出されるのが、生存期間中央値です。例えば、ある治療を行った患者さんが11人いたとき、生存期間の短い方から長い方に順に並べ、ちょうど6番目の人の生存期間が生存期間中央値になります。抗がん剤治療を施したケースには、生存期間中央値がしばしば取り上げられることがあります。

 以上のように、5年相対生存率や生存期間中央値などで余命を推測することが多いのですが、病気の種類やステージが同じでも、患者さん個々によって病気の性状や程度は様々であり、患者さん自身の体力や生命力にも違いがあります。そのため、5年相対生存率や生存期間中央値というデータを駆使したとしても余命に関しては大まかな推測しかできません。病気が終末期に入って多臓器不全などに陥り、血圧低下や尿量減少などを来した場合は、死期が近日中であると断言できる場合がありますが、患者さんが日常生活を普通にこなしている状況での「余命期間」は参考値でしかないのです。

 スキルス胃がんの余命を考える上で、「胃がんの5年生存率」を確認してみましょう。スキルス胃がんの生存率については、公的かつ正確な集計がありません。そこで、胃がん全体の生存率から、スキルス胃がんの生存率を類推することになります。

全国がんセンター協議会の最近の報告によると、胃がんの生存率は以下と出ています。

胃がんの5年相対生存率

  • ステージⅠ…97.4%
  • ステージⅡ…65.0%
  • ステージⅢ…47.1%
  • ステージⅣ…7.2%

※出典:全がん協生存率調査

 胃がんは内視鏡検査技術の発達により早期発見治療が可能になっていますが、胃がんの中で特にスキルス胃がんは、発見が難しく進行が速いため、診断されたときには既にステージⅣである場合が多いのです。スキルス胃がんは他の胃がんに比べて生存率が低いことが前提にあるので、スキルス胃がんの5年相対生存率は、胃がんステージⅣの生存率よりも低めになると考えられます。つまり、スキルス胃がんの5年相対生存率は7%未満(7%よりも相当に低い)と推察されます。

 ある施設の報告では、スキルス胃がんは、ステージⅠ~Ⅲだと5年相対生存率は約30%、ステージⅣでは4%前後とされています。実際には、スキルス胃がんの90%は発見された時には既に腹膜播種があり、ステージⅣと評価されます。つまり、この施設の報告を参考にしても、スキルス胃がんの5年相対生存率は実質的に極めて低い数値(単純計算上は6.6%)になります。

 以上のように、5年相対生存率を参考にしただけでも、スキルス胃がんの余命は他のがんに比べて極めて短いものだと予測されます。現に、スキルス胃がんの患者さんの多くは、余命数ヶ月から長くて1年程度と宣告されることが多いのです。これらによりスキルス胃がんは、胃がんだけに限らずあらゆるがんの中で最も経過が悪く、治すことの難しい難治がんとして評価されます。(その他の難治がんとしては、膵臓がん、胆管がん、小細胞肺がんなどがあります。)

 当クリニックではがん遺伝子治療を提供していますが、遺伝子治療を受けられる方の多くは、抗がん剤治療等の標準治療をやり切った上で症状が悪化し続け、他に有効な治療法がないために遺伝子治療に踏み切るという方です。そのような方々の多くは、余命数ヶ月(時には1か月程度)という厳しい宣告を受けています。つまり、現時点では、遺伝子治療を希望されるほとんどの方は、極めて厳しい状況で治療を開始されます。スキルス胃がんにおける遺伝子治療では、そのような状況であっても50%の方は症状が改善したり安定したりすることがしばしばありますが、結果として治療後の生存期間中央値は1年程度です。

◆北青山Dクリニックのがん遺伝子治療で、症状改善、無症状増悪が1か月以上得られた例

胃がんでは、がん遺伝子治療により、42例中21例、50%の方に症状改善※が見られました。

※がんに関連する以下の症状や検査所見の改善

  • 疼痛(腹痛、背部痛、胸痛など)
  • 食思不振
  • 悪心・嘔吐
  • 排便障害
  • 腹満感
  • 倦怠感
  • しこり感
  • 腫瘍マーカー値
  • 画像(内視鏡、エコー、CT)所見

◆北青山Dクリニックで遺伝子治療を受けた、スキルス胃がん患者さんの生存曲線


1年生存率が40.9%、2年生存率が20.5%、生存期間中央値は10.5か月となっています。

 このページをご覧の方の中には、スキルス胃がんで余命宣告を受け、強い不安を抱いている患者さんやご家族の方もいらっしゃると思います。そこで、スキルス胃がんの患者さんの治療にあたってきた医師としての経験から、以下に、極めて短い余命宣告を受けたスキルス胃がんの方々に共通するエピソードをまとめてみました。遺伝子治療を希望して当クリニックを受診されるスキルス胃がんのほとんどの方々が、共通して以下のような経験をお持ちです。

スキルス胃がんの患者さんに共通するエピソード

◆毎年検診を受けていたのに・・・

  • 血のつながっている人に胃がんが多かった
  • 40歳を超えて不調を感じ始めた
  • 会社のバリウム健診で要再検査
  • 胃炎との診断
  • 不調が続いていたが胃炎だから大丈夫と言われ安堵していた

◆突然の宣告。「スキルス胃がんのステージⅣ、有効な治療法がありません」

  • 症状が良くならないため別の医療機関を受診したら上記の宣告
  • 手術の適応ではありません。治療目標は「延命」です、と告げられる
  • 数か月の命と考えてください、と告げられる
  • 絶望の淵に追い込まれる

◆スキルス胃がんはこういうものだと説明を受ける

  • 普通の胃がんは「高分化腺がん(成熟細胞のがん)」
    粘膜表面に病変が現れ、ゆっくりと塊を作って大きくなる
  • スキルス胃がんは「低分化腺がん(幼若な細胞のがん)」
    粘膜表面に塊をつくらず、胃の壁の内側にしみこむように広がっていく
  • スキルス胃がんは胃がんの中の1割程度で、独自の統計がない
  • 胃がんのステージⅣの5年生存率は10%未満
  • スキルス胃がんは発見時ほとんどステージⅣで、手術不可能な状態
  • 治療法が確立していない、明らかな治療ガイドラインがない
  • 早期発見が難しく転移しやすい
  • 30~40代の女性にも罹患者が多い

◆治療法がないと言われても・・・

  • 今の医療技術では何とかなるのでは?
  • 突きつけられた現実を受け止められない
  • 本当に何もできないのか?

◆抗がん剤治療しか選択肢がなくても可能性があるなら治療に挑みたい

  • 抗がん剤治療薬自体も投薬治療の方法(治療戦略)も進化しているという
  • ただし相応の副作用は避けられない
  • たとえ根治は望めなくても延命目的の治療でしかなくても、未来を見て生きたい

  • 抗がん剤治療の開始
  • 結果として症状の改善が得られず抗がん剤の変更を繰り返すことに
  • 副作用もきつく、これ以上選択できる抗がん剤がない
  • 結果、BSC(Best Supportive Care: 事実上の無治療)の状態と宣告される
  • 緩和ケアの選択肢しかないのだと

◆孤独と不安から 新聞広告、TV番組情報、ネット検索情報に飛びつく

  • 命はあきらめられない
  • 科学的な根拠がない治療でも、藁にもすがる思いで頼りたくなる
  • 科学的根拠に基づくという、治験・臨床試験という選択肢もある
  • 得られた情報を冷静に評価し自分にとっても家族にとっても意味のある治療を
  • 死ぬことは避けられないが自分なりの生き方をしたい

◆この治療に懸けてみたい → 遺伝子治療(CDC6 RNAi療法)へ

  • 標準治療を否定していない遺伝子治療だという
  • 治験や臨床試験の選択肢も提示している
  • 絶対治せる治療ではないという、魔法の治療ではないとも
  • 科学的根拠がまだ十分ではない自費診療ではある
  • ただ、公正な情報を開示する姿勢に好感
  • 人それぞれの生き方を全うすることを目指している
  • 大学等のアカデミアと組んで科学的根拠の確立に取り組みだしたという
  • この治療に懸けてみたい

 スキルス胃がんの診断や治療を受けられた多くの方々は、こういった共通体験を持っている印象があります。このような経緯で当クリニックの遺伝子治療を希望される方々に対して、治療効果は絶対とは言えないものの、満足していただける治療を提供するよう、医療に対する期待に全力で応えるよう、日々努めています。

 日本では特に、未承認薬治療に対して否定的な見方をする方が少なくありません。自費診療は詐欺診療だとまでおっしゃる医師もいらっしゃいます。
 ただ、そのような先生方にも冷静に考えていただきたいことがあります。
 もし自ら、もしくは大切なご家族が、スキルス胃がんと診断され、治療効果が期待できる標準治療が選択できない状況になったら、それでもまだ日常生活や社会活動を営める状況であったら、どのように疾患に向き合われるのでしょうか。一般の患者さん方に促されるように、レジメン通りの抗がん剤治療を享受し、治療効果が得られなくなった、もしくは副作用が強くなったために他剤への変更を繰り返し、最終的に抗がん剤の毒性に侵された身体が残った状態で、最終手法である緩和ケアを選択するという生き方を選ばれるのでしょうか?
 泰然自若として、標準治療としての抗がん剤治療のフルコースを受け、結果として緩和ケアを享受しながら治験や臨床研究への参加する、という選択肢を取る方もいらっしゃると思いますが、そのような厳しい状況で自らの人生の最後をどのように生きるかについて真剣に考えれば、当クリニックに相談にいらっしゃる方々の心情や決意を理解していただけるのではないかと思います。

 QOL(生活の質:Quality of Life)をさらに進化させたQALY(クエリ― 質調整生存年:Quality-adjusted life year)という考え方があります。例えば、1 QALYは、完全に健康な状態を1年間継続したことに相当します。もしある人の健康が完全ではないならば、その1年間は1以下のQALYとして算定され、死亡すれば0 QALYと算定されます。QALYとはただ生きるだけではなく、生活の質をしっかりと保った上で生存しているかどうかの立場で評価する指標値です。
 医療を受けたことで、人としての尊厳が保たれた状態で人生を送ることが侵されていないか、ただ生き長らえるだけで良いのか、という問いかけに対して、特に難治がんに対する医療は真剣に考えなければいけないのではないでしょうか。
 治療による生活の犠牲が少ない、寛容性のある治療が、治療により完全に治せる確率が低い疾患に対しては特に求められます。その上で、既存の治療を超える治療成果が得られることが新しい医療には求められます。

 遺伝子治療(CDC6 RNAi療法)は、そのような「人としての尊厳を保つ医療」を求められる方々へ提供するに値する医療だと感じています。

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