スキルス胃がん・膵臓がんとCDC6shRNA治療

スキルス胃がんは完治するのか

がんの「余命」とは

 がんは日本人の死因のトップで、日本人の3~4人に1人ががんで亡くなります。医学の進歩にもかかわらず、これだけ多くの方ががんで亡くなることから、がんは不治の病という印象を持つ方もいらっしゃるようです。また、治せるということがわかっていても、多くの方が治療は一筋縄ではいかないと感じているのではないでしょうか。
 がんは、初期(早期)に発見して適切な治療を施せば、完治が可能です。そして、がん治療薬の発展は目覚ましいものがありますが、がんを完治させるには、がんを手術で一気に取り除く方法以外に確実なものはありません。
 ただし、肉眼的に取り除くことができても、実際には目に見えないがん細胞が、既に切除範囲外に広がっていることがあります。その場合は、根治的に切除されたと判断されても、後からがんが再発してしまうことがあります。
 確実にがんを治癒させるには、早期発見かつ早期手術が絶対条件となります。特に胃・大腸などの消化管がんの手術は、早期の場合内視鏡で実施可能になり、身体への負担が最小限でがんの完治も期待できる時代になりました。

 がんが治療により完治(根治)するとは、具体的にどのような状況をいうのでしょうか。
 風邪が治ったというのは、風邪の原因となるウイルスや細菌が免疫力により完全に駆逐されて、発熱・咳・のどの痛みなどの特有の症状が消失した状態です。同じように、がんが治るとは、厳密には、体の中のがんが完全に除去されて1個のがん細胞も存在しない状態になることをいいます。
 がん細胞が発生すると、ウイルスや細菌と同様に、体に備わっている免疫系が排除しようとします。しかし、がん細胞は免疫に対して様々な抵抗力があり、がんの増殖がある程度進んでしまうと、自然に治ることはまずありません。

 ミクロのレベル、例えば数個のがん細胞であれば、免疫細胞に駆除される可能性がありますが、がんと診断されるレベルでは、がん細胞の塊は5㎜~1㎝以上に成長しています。その中には数億個のがん細胞が存在し、そこまで細胞数が増えたということは、がん細胞が免疫細胞の抑止力に打ち克って分裂増殖を維持してきたということを意味します。そうなると、がん細胞は免疫からの攻撃をものともせずに、どんどん分裂増殖を続けていきます。
 がんは当初は1個の細胞から発生しますが、細胞分裂により、1個、2個、4個、8個、16個、・・・・2n個と増えていきます。そして、1~2㎝程度の大きさまでは、塊のまま局所で増大していきます。
 しかし、ある程度の大きさを超えてくると、血液やリンパ液に乗って全身を巡るようになり、別の臓器に定着してそこで改めて増殖することがあります。これを「転移」と呼び、転移してしまうと、残念ながら完治させることが非常に困難になります。
 がんが発見された時に転移が既に認められる場合(ステージ4)だけでなく、手術後まもなくして(一般的には数年以内が多い)再発や転移が見られる場合も、完治は極めて難しくなります。

 手術後に完治させることができたかを評価するには、一定期間以上再発がないことが示される必要があります。特に消化器のがんは一般的には、治療(手術)後5年間再発しければ、がんが完全に消えたと判断されます。
 そこで、5年生存率が注目されます。ただし、厳密には生存率と根治(完治)率は違います。5年生存率は「手術5年後に生存しているかどうか」を見るもので、「がんが完全に消えているかどうか」を評価する指標ではありません。5年後に再発していても生存している可能性はあります。最近では、10年生存率も報告されるようになりました。5年生存率と同じ母集団を見ているわけではありませんが、10年生存率は、5年間生存できた人がその後も生存をし続けられるかどうかの目安になります。


胃がんのステージごとの5年相対生存率


胃がんのステージごとの10年相対生存率

 例えば、胃がんのステージⅠの5年生存率は97.4%ですが、10年生存率は89.7%になります。このずれは、治療後5年間生存したとしても必ずしも完治したわけではないことから生じます。同じくステージⅡではそれぞれ65.0%、52.2%、ステージⅢでは47.1%、36.2%、ステージⅣだと7.2%、6.0%と、5年生存率と10年生存率には相応の乖離があります。

 スキルス胃がんには、診断がしにくく、かつ進行が比較的速い、という二つの厄介な特徴があります。さらに、20代や30代といった若い年代でも発症することがあるため、まだ検診するには早いとされる世代の人が、食事が食べられなくなって初めて検査を受けたらスキルス胃がんだった、ということが珍しくありません。

 そして、多くのスキルス胃がんは、相応に進行してから発見され、ほとんどが「腹膜播種」という特殊な転移状態になっています。腹膜播種とは、腹腔内にがん細胞がばらまかれるように広がってしまう状態です。そのため手術が困難で、一般的には手術による治癒を目指せる段階ではありません。どうしても化学療法により病状の進行を抑えることが中心となり、担当医は患者さんが期待する“治癒・完治”とは別の目標を念頭に置くことにならざるを得ません。つまり、腹膜播種の状態では完治が見込めないことがほとんどです。
 このタイプのがん治療として、これまでに新しい腹腔内への抗がん剤投与、温熱療法、免疫療法など様々な治療法が駆使されてきました。昨今は、オプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害剤の選択も可能な場合もありますが、残念ながら確実に完治させる治療法が登場していないのが現状です。当クリニックでは遺伝子治療を行っており、スキルス胃がんの病巣の縮小傾向や、排ガス排便や食欲などの症状の改善などの効果は出ているものの、全てのスキルス胃がんのコントロールや完治はまだ実現できていません。

 また、腹膜転移がない状態であっても、リンパ節転移の個数が多いことも少なくありません。リンパ節転移個数が多い場合には、根治手術後の再発率が高くなります。そのため、手術単独での治療よりも、抗がん剤を併用することが多いです。手術後に病理検査結果を見て、リンパ節転移個数の多い病期であると分かった後に、“再発予防”の意味合いで抗がん剤投与が行われます。これを術後補助化学療法と言います。
 このタイプのがんは胃全体に拡がっているために、行われる手術は胃全摘であることがほとんどです。胃全摘後には食事摂取量が確実に減り、胃切除後症候群と総称される術後障害の頻度が最も高いことが知られています。後遺症に悩ませられながら抗がん剤投与というのは困難なケースが多く、実際に十分な抗がん剤治療が出来ないことも多く経験します。
 であれば、胃全摘前に抗がん剤を行うと良いのでは?という考えも出ますが、手術前に抗がん剤投与(ティーエスワン+シスプラチン併用療法)を行っても、治療成績の改善は得られませんでした。別の薬剤を使用することで結果が変わる可能性はありますが、このタイプのがんの治療成績を改善する治療は見いだせていません。

 以上から、スキルス胃がんは完治が大変難しいがんだと言えます。ただ、スキルス胃がんであっても、初期(早期)で発見され、腹膜播種やリンパ節転移がない段階で手術により完全に取り除かれることが叶えば、他の胃がんと同様に完治することもあり得ます。ただし、その確率は10%を切るとも言われています。

 スキルス胃がんの根治・完治を目指すためには、他のがんと同様、高度進行がんの状態にならないことが唯一の解決策となります。スキルス胃がんは自覚症状が出にくいため、症状がない段階から自発的に内視鏡検査で胃のチェックを受けることがベストと言えます。
 20代、30代といった若い世代にも見つかるがんのため、何歳から胃カメラによる検診を受けるべきか?という問題はあります。明確な答えはありませんが、気になったら胃カメラを受けてみる、胃がんになった親類がいるから気になる、といったきっかけで検診を受けることも1つの対処法となるでしょう。

 医師としての経験上の話となりますが、スキルス胃がんは自覚症状が出にくいほかに、血液検査上の異常も出にくいという特徴があります。高度進行がんをもつ患者さんの場合、血液検査で炎症反応を認めることが多くありますが、スキルス胃がんの患者さんでは、95%で炎症反応が全くの陰性でした。また、CEA、CA19-9といった腫瘍マーカーも陰性であることが非常に多いです。
 血液検査での検診結果で指摘されず、治療が困難な進行がんとなって栄養障害を来す段階ではじめて血液検査上に異常値が出て、スキルス胃がんが気づかれるということもあり得ます。「血液検査で異常なし」=「スキルス胃がんがない」とは全く言えません。

 バリウム検査の方がスキルス胃がんは見つけやすいという話をよく耳にしますが、これは本当でしょうか。確かに、胃の膨らみの悪さはバリウム検査では分かりやすいですが、その場合には内視鏡検査でも胃の内腔が狭いことで気が付きます。場合によっては、経験の浅い内視鏡医なら“異常なし”と診断してしまう可能性も否定できないくらいに見た目の所見が軽微なこともあり、その場合にはバリウム検査の方が良いといえるかもしれません。ただし、バリウムではっきりと診断がつく場合は、相当にスキルス胃がんが進行していることを意味します。経験豊富な内視鏡検査医が検査を担当するのであれば、基本的にはバリウム検査より、内視鏡検査の方が早期で発見する確率が高いように感じます。

 以上で見てきたように、スキルス胃がんの完治を目指した治療は、現状では大変困難なものとなっています。30~50代のまだがんを強く意識しない年齢でありがなら、完治が期待できない進行がんのレベルで発見されることが極めて多いスキルス胃がんに対して、有効な治療法の開拓が切に求められます。
 当クリニックでは、2009年より遺伝子治療を提供してきたクリニックとして、遺伝子治療がさらに発達してスキルス胃がんをコントロール、そして完治できる日が来ることを願って、日々治療法の開拓や、遺伝子治療の改良に努めています。スキルス胃がんであっても遺伝子治療で症状改善を認める例が多いことから、今後は投与薬剤の力価を高める、単位時間当たりの投薬量を大幅に増やすなど、より効果の高い薬剤への改良に取り組んでいきます。スキルス胃がんで完治した人の声を多数皆さんに届けられる日が来ることを願っています。

参考:スキルス胃がん治療例
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16352936
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14750329

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