がんの遺伝子治療「CDC6shRNA治療」

遺伝子治療の問題点

 遺伝子治療は、多くの難治性疾患に対して有効な治療効果が期待できる、新たな医療技術です。これからの医療として、大きく飛躍していくことは間違いありません。ただし、現時点で遺伝子治療を取り巻く環境には、問題点や解決すべき課題がいくつかあります。

 遺伝子治療は、21世紀初頭から脚光を浴びている新しい治療法です。そのため、公的な認可に必要な科学的な立証や、治験等のデータがまだ十分に出揃っていません。遺伝子治療の中には公的な承認を受けたものも出てきていますが、肝心の難治性の固形がん、再発がんなどに対する遺伝子治療の中で、承認を受けたものはまだありません。よって、現時点ではがんの遺伝子治療は未承認治療となります。
 どんなに期待できる治療法でも、新しい治療が公的な承認を受けるまでには、相応の時間と多額の費用を要します。ノーベル賞を受賞された本庶医師が開拓された「免疫チェックポイント阻害剤」は、考案されてから許認可を受けるまで、20年前後の時間を要しています。遺伝子治療も、許認可を受けるまでには相応の時間を要するでしょう。
 治療への信頼度という点では、未承認治療と比べれば、科学的な立証としっかりとした治験を経て認可を受けた治療法の方が圧倒的に信頼度が大きいといえます。当クリニックでは、がん遺伝子治療を1,500例程実施し、重篤な有害事象は経験していませんが、予期しない副作用等がないと断言することはできません。治療を受ける際には、リスクがあることを十分に理解することが必要です。
 ※がん遺伝子治療の副作用やリスクについてはこちらをご覧ください。

<この問題に対する私たちの姿勢および見解> 阿保義久院長より

  • 未承認治療であることの限界をよく理解し、万全の注意を払って治療に当たることが大切と考えています。
  • アカデミアと協力して科学体根拠の立証に取り組み、承認治療への道を拓くことを目指します。

 遺伝子治療を希望される方々の多くは、以下のいずれかに当てはまります。

  1. 標準治療を受けたものの、期待できる治療効果が得られなかった方
  2. 抗がん剤の副作用が強く、その治療を断念せざるを得なかった方
  3. まだ日常生活や仕事もできる状態なのでがん治療を継続したいけれど、「もう有効な治療法がない」「治験や緩和医療しか残されていない」と宣告を受けた方

 このような方々は、今まで主たる治療を受けてきた医療機関や担当医があり、そちらとの関係を保ちながら遺伝子治療を受けることを希望する場合がほとんどです。
 遺伝子治療を提供する側としては、もちろん標準治療を否定しておらず、標準治療を補完する立場でかかりつけ医療機関と協力体制をとることが、患者さんにとって極めて大切なことだと考えています。
 そもそも、未承認治療である遺伝子治療は、公的に承認されている標準治療を補完する立場で成り立つものです。また、遺伝子治療により症状改善の期待はできても、標準治療でできる治療自体がまだ完全とは言えない場合、遺伝子治療を行っても症状が進行する可能性もあります。そのため、特に遠方から受診される方などは、かかりつけ医の方に症状を管理いただかざるを得ないことがあります。
 しかし、実際は、遺伝子治療を受けることを担当医に相談した際に、未承認治療である遺伝子治療を受けることを禁止されたり、場合によっては「遺伝子治療を受けるのであれば、こちらの医療機関ではもう治療や管理ができない」「自費診療である遺伝子治療は詐欺診療」などと説明される例があり、患者さんの希望がかなえられないことがあります。
 遺伝子治療を受ける患者さんやご家族の中には、医師・看護師など医療事情をよく知っている方々がいらっしゃる場合があります。そのような場合は、担当医師が標準治療以外の医療を受け入れないことを予測して、初めからかかりつけ医に内緒で遺伝子治療を受けることを希望する場合もあります。

<この問題に対する私たちの姿勢および見解> 阿保義久院長より

原病を管理している医師に反対された場合には、残念ながら遺伝子治療を提供することはできません。過去の医療情報を共有させていただいたほうが遺伝子治療の組み立てがしやすくなり、また、遺伝子治療を受けて頂いたのに治療効果が得られなかった場合に、患者さんとかかりつけ医療機関の関係が損なわれていると、患者さんが露頭に迷ってしまうことになるからです。
ただし、患者さんやご家族が治療を希望し、かつ症状の改善の可能性があると判断した場合には、前医からの情報がなくても遺伝子治療を提供しています。
かかりつけ医療機関の担当医師の中には、患者さんのお気持ちや立場をよく理解されて、標準治療以外の治療に対して理解を示される方もたくさんいらっしゃいます。そのような医師とは、医療情報の交換が非常にスムーズにできるので、患者さんにとってもメリットが大きいと感じています。一般的には、関東圏の医療機関よりも、遠方の医療機関の先生方のほうが遺伝子治療を併用することを受け入れられる印象があります。
個人的には、標準治療で治せる方法がなくなってしまった患者さんが別の治療を受けることを希望した場合に、その治療内容に詳しいわけでなければ、治療を受けることを禁止したり、治療を否定したりする姿勢は、医療倫理に反するのではないかと考えています。ましてや、患者さんが他の医療機関で医療を受けたら、自分たちの医療機関ではもう面倒を見ない、という姿勢は倫理以前の問題ではないでしょうか。患者さんの最後の生き方や生き様を制限ないしは邪魔する権利は、どんな医師にもないと思います。

 遺伝子治療に限らず、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などの新薬は、薬剤費が極めて高額です。
 例えば、免疫チェックポイント阻害薬の代表であるオプジーボは当初、年間の治療費が3,000万円ほど必要でした。最近は薬価が下がりその半分以下となったようですが、非常に高額の薬剤であることは否定できません。また、その治療を受けても反応する確率は20%程度とされていることを考えると、なおさら高額である印象を受けます。しかし、オプジーボは公的承認薬のため、条件を満たせば患者さん自身の治療費負額は大幅に減額されます。治療費の大部分は公的資金から賄われるからです。
 未承認の遺伝子治療薬も、例にもれず高額です。生産に多大な手間と時間コストを要するために、患者さんの治療費負担が大きくなります。
 自費診療の場合、金額は医療機関によって異なりますが、一般的に1回の治療費は30万円以上で、複数回の治療が必要になります。治療を継続すれば、または薬剤を増量すれば、症状の安定や改善がかなう可能性があっても、治療費負担が理由となって治療を断念せざるを得ない場合があります。
 遺伝子治療は、抗がん剤のような毒性がなく、激しい副作用が持続することがないため、副作用を理由に投薬量の制限や投薬の中止を行うことはありません。よって、治療自体は続けやすいのですが、治療を継続していくほど経済的負担が大きくなり、遺伝子治療を断念せざるを得ないことがあるのです。

<この問題に対する私たちの姿勢および見解> 阿保義久院長より

すでに治療法がないと宣告を受けたスキルス胃がんの方で、遺伝子治療により腹水が消え腸閉塞や腹痛などの症状が改善し、ご本人は治ったと感じるほどに回復された方が何人かいらっしゃいます。しかし、治療費負担のために、治療薬の増量や治療の継続ができず、病状の悪化が余儀なくされることをしばしば経験しています。経済的負担を減らすことができれば、スキルス胃がんのような難治がんを克服できることも可能ではないかと感じることが多々あります。
治療費の負担を増やさずに、単位時間当たりの投薬量を数倍から数十倍にできれば、遺伝子治療の治療成果が大幅に改善するのではないかと考えています。当クリニックでは、遺伝子製剤の製造元と定期的に話し合い、その一刻も早い実現を目指しています。

 遺伝子治療で用いられるがん抑制遺伝子には、p53、p16、PTENなどいくつかの種類があります。これらのがん抑制遺伝子は、多くのがんで変性したり欠落していることが認められるため、これらを投与することは、がんの種類に限らず意味があると考えられています。仮にこれらの遺伝子に異常がない場合に投与しても問題がないことも確認されているため、がんの種類によってこれらの薬剤の投与を制限する必要はありません。
 また、遺伝子治療の一つであるCDC6 RNAi療法がターゲットにしているCDC6タンパクも、ほぼ全てのがんで大量に発生していることがわかっており、適応を絞らずに全てのがんに応用しても問題はないと言えます。
 しかし、昨今の医療では、プレシジョン・メディシン(precision medicine:精密医療)といって、「各種がんの遺伝子変異を同定して、それに応じた適切な分子標的薬を投与する医療」という考え方が主流となっています。遺伝子治療こそ、各患者さんごとに治療ターゲットが最適かどうかの遺伝子変異を確認し、個人レベルで最適な治療を提供すべきであると言えます。これらを精密に確認する方法はまだ確立されていませんが、こうした治療の最適化により、治療効果のさらなる改善が期待できます。

<この問題に対する私たちの姿勢および見解> 阿保義久院長より

血液検査で代表的ながん抑制遺伝子の変異を同定する手法を既に同定し、より検査精度の高い手法の開拓に努めています。
CDC6 RNAi療法がターゲットにしているCDC6タンパクの過剰発現の有無や、その程度を測定する手法については未確立のため、アカデミアとの共同研究を今後も推し進めていく考えです。ただし、ほぼ全てのがん種のほとんどでCDC6タンパクの過剰発現が見られることは既知であり、正常な細胞のCDC6タンパクを除去しても特に大きな問題は生じないことから、治療自体の安全性と効果は確保できていると判断しています。

 遺伝子治療は、当初、難治性の疾患に対して劇的な治療効果が得られたこところから幕を開けました。その後、プロトコール(治療の計画)の吟味が不十分なことに起因した不適切な臨床研究による死亡例や、遺伝子を運ぶウイルス製剤が原因の白血病の発症例など、遺伝子治療の普及のために乗り越えなければいけない障壁がいくつかありました。
 2010年頃からはそれら技術的な課題が克服され、現在に至っては全世界的に臨床研究や治験が盛んに進められています。公的に承認される遺伝子治療も生まれており、これから遺伝子治療は急速に展開していくことが予想されます。
 ただし、注意しなければいけないのが、自費診療として普及してきた免疫療法の場合と同様に、治療効果は期待できてもまだ未承認の遺伝子治療薬に関する過度な広告が目につくことです。
 科学的見地に基づいた確実な情報を提示することは問題ありませんが、まだ十分立証されていない医学的情報を断定的な表現で提示することは、治療に対する誤解や過度の期待を招くことに繋がります。

 不適切な広告例としては、以下のような表現が挙げられます。

  • “がんはもう怖くない”
  • “進行がんも再発がんも確実に治せる”
  • “どんなに末期のがんでも治療可能”
  • “抗がん剤治療は不要”

 このような断定的な表現は科学的に誤りで、誤解や過度の期待を招く不適切なものと言えるため、惑わされないように注意が必要です。

<この問題に対する私たちの姿勢および見解> 阿保義久院長より

  • 科学的な見地から、より客観性に富む情報公開に心がけます。
  • 治療の限界や課題についても情報を開示します。
  • 自分たちのサイトや案内に誤解を招く表現や不適切な内容がないか、常に注意します。
  • 外部から広告の問題点を指摘された場合は、速やかに対処し再発防止に取り組みます。

今や、早期がんは、標準治療で治癒させられる可能性が極めて高くなりました。しかし、進行がん、再発がん、末期がんは、完全にコントロールすることがいまだにできていないのが現状です。遺伝子治療がそのような難治がんをコントロールしていく可能性は十分あると私は思いますが、現状ではまだ皆さんの期待に完全に応えられる結果は出せていません。ただし、抗がん剤治療のような毒性を持つ治療ではなく重篤な副作用がないので、治療薬の投与量を増やすことができれば、より良好な治療結果が得られることが期待できます。

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